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第39号 1997年12月
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理工総研設立5周年を迎えるにあたって

早稲田大学理工学部教授 堤 正義

堤 正義
堤 正義

 1993年4月の理工学総合研究センター設立以来、今年で5年目になり、来年度には設立5周年の記念シンポジウムが開かれることが予定されている。この間、2期目 のプロジェクト研究が一期以上の数でスタートし、外部資金導入は設立後4年間で3倍に増加し、ASTEに報告されている業績も倍増している。本年度は文部省のハイ テクリサーチセンターにも選定され、本庄校地やその他のサテライトラボ構想なども少しずつ進展してきた。
 理工総研の設立目標はかなり達成されて、順調に運営されていると思われる。とはいえ、大学を取り巻く社会の機構に大きな変革が要請されている現在、理工総研 としても単なる継続に安住するのではなく、常に改革を試みながら行動することが求められている。
 しかし理工総研を見る理工系教員の間には、ともすれば、なんとなくマンネリな閉塞感があり、設立前の熱気が感じられない。ただ、学科の場所取りという認識すらあ るようだ。改革の意欲を高め、より良い理工総研を目指すためには、まず現在の問題点を把握することが必要である。以下にその幾つかを列挙する。

1.プロジェクトの立ち上げが企業と関係の深い一部の活動的な個人に依存している。(第一期のプロジェクト研究
 代表者31人、第二期は35人、そのうち25人が、第 一期と第二期の両方でプロジェクトを立ち上げた。)
2.理工総研プロジェクトとしての利用度が学問領域によって著しく異なる。(現在の建物は、インテリジェントビル
 で、大型の実験設備を導入できない。)
3.これ以上プロジェクトを展開する場所がほとんどない。
4.現状を把握する評価行為がない。
5.狭くは大学全体、広くは世間において理工総研の存在が良く認識されていない。
6.現在の日本におけるプラグマチズム的学術偏重傾向が理工総研にも色濃く現れている。(これが問題点であ
 るかどうかは、議論の余地がある。)

 これらの点を修正すべきかどうかは立場によって異なるが、より良い姿を求めて議論する材料にはなるだろう。
 専任教員が21名しかいない現在、理工総研の活動の多くは兼任研究員(その大多数は理工学部教員)によって支えられている。理工総研の活動強化、サービスの向 上を目指せば、それは理工学部教員の負担となる。さらに現在の大学院重点化の動きは、本学の教員にとって、大学院生の増加とその教育による負担増を意味する。
 従って、理工総研において新たな展開を希求すれば、人材の確保が不可欠である。そのためには、これまでもある程度は行われていることではあるが、給与の出どこ ろを問わず客員研究員であっても学科の一員と考えて、教育・研究・プロジェクトの立ち上げにそれ相応の役割が果たせるようなシステムを完成させることが肝要で、それには学部・大学院との密接な協力関係が不可欠である。
 理工学総合研究センターが、世界に知られる研究機関として存在することが究極の目標であるが、それには優秀な若い人材をたくさん集め、明確な基準に基づいた評 価を導入して研究所の運営をしていかねばならない。

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*SCIENCE COLUMN*

サイエンスニュース

第17回サイエンス・サロン談話会開催される


 去る10月18日(土)、理工総研サイエンス系研究部門委員会主催による第17回サイエンス・サロン談話会が、早稲田大学理工学部55号館、理工総研会 議室において開催 されました。談話会では、岩田耕一氏(理工総研客員助教授・東京大学理学部助教授)により「ピコ秒時間分解ラマン分光法と溶液」という題目で講演が行われ、分子レベル でのエネルギー拡散の測定という画期的な研究成果が、非常に分かりやすく解説されました。以下に講演要旨をご紹介致します。(文責:鷹野)

 分子に光が当ったとき、大多数の場合は同じエネルギーを持った光が散乱されます。しかし、ごく稀に、入射した時とは違うエネルギーを持つ(違う波長を持つ)光が散乱さ れる場合があります。この散乱光をラマン散乱光と呼びます。ラマン散乱光強度の波長依存性(ラマンスペクトル)を測定し、これを解析することで、散乱の原因となった分子 についての詳しい情報を得ることができます。
 ラマンスペクトルを測定する場合は、試料にレーザーの光を照射します。このとき使うレーザーの光がパルス光であれば、得られたラマンスペクトルにはそのパルス光が持 続した時間内の情報しか含まれないことになります。現在ではピコ秒(10−12秒)の光パルスを作ることも比較的容易にできるようになりましたので、ピコ秒の時間分解測定も 可能です。(この時間領域では、スペクトル測定の際に時間とエネルギーの不確定性関係を考慮する必要があります。)時間分解測定の際には2種類の異なった波長のピコ 秒光パルスを用意し、一方の光パルス(ポンプ光)を先に照射して分子を変化させ、もう一方の光(プローブ光)をその後で照射して変化した状態のラマンスペクトルを測定し ます。プローブ光の進む距離を0.3mm変化させるとポンプ光との時間差は1ピコ秒変化するので、ピコ秒の時間領域で分子が刻々と変化する様子を観察することができます。
 これまでに私は、ピコ秒時間分解ラマン分光計を組み立ててその性能を評価し、またこれを用いて溶液中で光励起された分子の時間挙動を観測してきました。今回は、そ の中で最近分かってきた溶液中での溶媒和構造と分子間エネルギー移動過程についてお話ししました。溶液中で進行する化学反応が重要であることは言うまでもありませ んが、溶液の構造や溶液中での分子間相互作用についての分子レベルでの理解は現在のところまだまだ不完全です。溶液中で進行する化学反応を理解する上で、溶媒 和構造と分子間エネルギー移動過程の解明は避けて通れない課題です。
 私たちは、研究の過程で、trans-スチルベンという分子を光で励起してこの状態(最低励起一重項状態)のラマンスペクトルを測定すると、スチルベン分子の温度を測ること ができることを見出しました。この「ピコ秒ラマン温度計」を用いて光励起直後のスチルベンの温度とその冷却過程を各種の溶媒中で測定し、溶媒和構造と分子間エネルギ ー移動過程について独自のモデルを作ることができました。研究成果の主なものは、(1)溶質から溶媒和した溶媒分子へのエネルギー移動は2、3ピコ秒よりも速いと推定 できたこと、(2)クロロホルム溶液の場合、溶媒和に関与する溶媒分子の数は5個から12個であると見積もれたことです。
 ピコ秒時間分解ラマン分光法を利用して得られる 結果をもとに、溶液中で起こる高速過程や溶液の構造について新しい視点からの議論ができるようになりました。
参考文献:岩田耕一、“「ピコ秒ラマン温度計」で 探る溶質 −溶媒相互作用”、化学と工業Vol. 50, No. 2 (1997),
       131-134.

 なお、今後のサイエンス・サロン談話会開催予定については、詳しい日時が決まり次第、理工総研ホームページ等でご案内致します。

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*TECHNOLOGY COLUMN*

テクノロジー系研究紹介

音響情報処理研究

 人と音とのかかわりは極めて大きなものです。音に関する研究のうち基礎研究や実用化寸前のシステムの評価等については専門の枠を越えて多くの人々が力を合わせて研究を行い、その成果を共に利用し、また広く社会に還元するという進め方が馴染むものも多いはずであると考え設立した第一期のプロジェクト「快適な音環境の実現を目指した音場制御と信号処理に関する研究」の成果をふまえ、

  1. 高速標本化1bit信号処理の提案とその応用
  2. 一般化調和解析による音源分離、時間軸圧伸およびピッチ変換、高能率符号化
  3. 近接4点法による音場の空間情報の把握
  4. 生活者の立場に立った音環境制御と評価
  5. 三次元音場の数値計算とそれに基づく音場制御
  6. 視覚・聴覚が退化してしまった“文明人”の目や耳によってではなく、人間が本来持っていた視覚・聴覚に基づく符号化およびVirtual Reality構築
  7. 人間と共同作業を行うロボットの実現を目指したヒューマノイドプロジェクト(代表橋本周司教授)と共同で、“人間の巧みな三次元音空間の把握と適応”のロボットへの導入に関する研究
  8. ユネスコの“New technology for culture”プログラムと連携して、「時がたてば消滅してしまう人間活動のあらゆる様相」をネットワークを通じリアルタイムで結び、また後世に残そうという現代版地球文書館の構築とでもいうべき遠大な研究また1996年からは、
  9. IPA(情報処理振興事業協会)の創造的ソフトウェア育成事業として「三次元音環境シミュレーションソフトウェアの開発」を、学内外の多くの研究者、学生が力を合わせて進めています。

 (1)の方式は48kHz標本化16bit量子化などの通常のマルチビット方式とは異なり、同じ伝送容量の場合768kHzで標本化し、1bitで量子化する信号処理方式であり、従来の符号化方式では実現できなかった広帯域・広ダイナミックレンジでの収音をすることが可能となります。1996年大久保キャンパス55号館S棟地下に完成したマルチメディアスタジオには世界で初めてこの方式によるマルチチャネルオーディオテープレコーダが導入されています。
 (2)の一般化調和解析は信号処理の始祖ウィナーにより提案され、最近本研究スタッフらにより音響信号の分析に適用されています。一般化調和解析は原信号の着目する区間において残差を最小とする周波数成分を一つ特定し、これを原信号から差し引く操作を順次繰り返すことにより、周波数成分を決定する単純明解な分析手法です。広く行われているフーリエ分析とは異なり、分析窓幅の影響を受けずに正確な周波数成分の抽出が可能です。
 (9)の三次元音環境シミュレーションソフトウェアは実空間で収録した音源、コンピュータで計算により合成された音楽や音声など各種音源信号のデータベースと、実空間における測定や設計図面から計算により求めた音場の伝送特性データベースを構築し、両者をたたみ込み演算することにより受聴者の周りに正確に三次元音場を構築する、パーソナルコンピュータ上で動作するシミュレーションソフトウェアを実現しようとするものです。

キルヒホッフ積分公式に基づく集中拡声
(音圧分布シミュレーション、ある閉空間の周囲に制御用音源を配置することによって、
その閉空間内では通常拡声しそれ以外の領域では急激に音が減衰する)
研究スタッフ
 (*理工総研兼任研究員 **理工総研客員教授 ***理工総研客員研究員)
 白井 克彦*(理工学部教授)
 山崎 芳男**、鮫島 俊哉(理工総研助手)
 永野 桃子(理工総研嘱託)
 尾島 俊雄*(理工学部教授)
 木村 建一*(理工学部教授)
 小林 哲則*(理工学部教授)
 富永 英義*(理工学部教授)
 大川平一郎(音環境研究所)
 太田 弘毅***(郵政省通信総合研究所)
 木村 まり(ニューヨーク大学音楽部)
 東山三樹夫**(工学院大学)
 柳川博文(千葉工業大学)
 渡辺  昇***(渡辺昇建築設計事務所)
 松本 慎二(ユネスコ文化のための新技術室)

連絡先
 音響情報処理研究室(55号館S棟6階07室)
 TEL: 03-3200-2046
 FAX: 03-5273-7439
 e-mail: yyoshio@mn.waseda.ac.jp

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*ENVIRONMENTOLOGY COLUMN*

エンバイラメント系研究者紹介

理工総研 客員講師 福田 展淳 博士

 「子供の頃からものを作るのが好きで、プラモデルなどをよく組み立てていました。」と語る福田氏は、中学時代に趣味に加わった天体観測のために赤道儀付きの 反射望遠鏡を自作したというほどの探求心旺盛な少年だった。また絵を描くのも好きで、この理工総研ニュースのレイアウトや、理工総研のホームページのデザインは 氏の手によるものである。
 そんな氏の博士論文の研究テーマは「都心居住」。銀座のような商業・業務集中地区における住環境の整備のあり方を検討したものである。このテーマを選んだ動 機は、修士課程に入って間もなくオブザーバーとして参加した「銀座地区まちづくり協議会」(委員長:尾島俊雄教授)での町の実情を訴える住民の声だった。「このような まちづくりの現場を学生に直に経験させるのが尾島先生のやり方なのかもしれませんが、これは講義よりもはるかに役立つ実践的経験の場でした。」と語る。
 町会の老人の「私の家の南側に大きな高層ビルが建って日を遮り、反対側は地上げで青空駐車場になり、冷たい風が吹き付ける。このような状況は何とかならないか 。」という訴えや、多くの住民の「なんとか銀座に人が住めるようにしてほしい。」といった切実な声に接し、また郊外の住宅地では当たり前のように守られてきた日照・採光 ・通風といった住環境が、都心の住居では全く保障されていない情況に衝撃を受けたという。
 町の人はただそこに住み続けているだけなのに、いつの間にか人の住まな いビルが建ち並び、太陽の光や風を遮ってしまっている。こんな実情に不条理を感じ、それ以来、都心部で生活する住民の住環境を保障する、居住環境を考慮した住宅 導入の可能性に取り組んできた。最近取り組んでいる新宿区西富久町のまちづくりの計画では、こうした住民の生の声に接して考えてきた住む人の立場に立ったまちづくり のアイデアが活かされている。
 現在は、北九州市や富山県魚津市の学術研究都市において環境を考慮したまちづくりの基本構想を進めている。これは地域一帯を環境共生都市のトライアルシティ (実験都市)にする壮大な構想である。ここにはリサイクルを追求した実験住宅を建設し、地域内での完全リサイクルの可能性を検討する。「90%がリサイクル可能な自 動車に比べ建築でのリサイクルは、まだ始まったばかりで社会的にも大きな意義を感じています。」また、これらの地域でのこれからの「情報インフラ」のあり方も氏の大 きなテーマである。
 最近気に入っている言葉は、「The greatest reward for doing is the opportunity to do more.(行いに対する最大の報いは更なる行いの機会が与えられることだ)」。常に社会的使命感を持って前進していく氏の今後の活躍が期待される。(文責:鍵屋)

北九州学術研究都市の計画模型を前に
北九州学術研究都市の計画模型を前に
略歴
ふくだ ひろあつ
1988年 早稲田大学理工学部建築学科卒業
ノルウェーのトロンドヘイム工科大学付属研究機関SINTEFにて2ヶ月間研修
1993年 武蔵野美術大学非常勤講師(〜94年)
1994年 早稲田大学専門学校非常勤講師(〜95年)
早稲田大学理工学総合研究センター助手(〜96年)
1995年 「都心居住環境に基づく高度ゾーニングの設定に関する研究」で博士(工学)取得
1996年 早稲田大学理工学総合研究センター客員講師

主な論文
東京都心・銀座日本橋地区の住居の実態(高容積率指定の商業地域における住環境に関する調査研究)、日本建築学会論文報告集No.466,1994.12
銀座地区に取り残された居住環境(高容積率指定の商業地域における居住環境に関する調査研究(2))、日本建築学会論文報告集No.476,1995.10

連絡先
「UIT計画推進に伴う調査研究」研究室
(55号館S棟8階01室)
TEL: 03-5286-3130/FAX: 03-5272-2598
e-mail: hiroatsu@ojima.arch.waseda.ac.jp
URL: http://www.ojima.arch.waseda.ac.jp/~fukuda/idex_j.html
水平線
Advanced Research Institute for Science and Engineering
URL: http://www.rise.waseda.ac.jp
e-mail: こちらまで スパムメール対策で、アドレスの前に**をつけてありますので、メールを送信する場合は**を削除してください
TEL:03-3203-7613
〒169-8555 新宿区大久保3-4-1
発 行:早稲田大学理工学総合研究センター
責任者:企画担当幹事 中川 義英
編 集:「理工総研ニュース」編集委員会